上高地→明神→徳沢→横尾→涸沢

登山届けを記入して、5:55に上高地を出発する。小雨がまだ残っているので、やむなく小梨平のビジターセンターで雨具を着用する。

明神には6:36に到着する。トイレに行き、小休止。朝食でコーヒーを飲んでいないので飲もうかとするが、コンロを出すのは面倒だ。明神館の自動販売機でホットコーヒーを買うが、無茶苦茶ぬるくて騙された気分になる。冷たいよりマシか、と気をとりなおしてミニアンパンを食べる。このアンパン、富山のアピタで買ったのだが、5個入りのうち2個を下で食べてしまった。非常食の都合を考えると、行動食はあまり余裕がなさそうだ。

徳沢には7:30に到着する。雪に覆われたキャンプ場に、カラフルなテントが張られている。以前に徳沢でキャンプを張ったことがあるが、大雨に降られて大変な目にあったことがある。テント泊は荷物が増えるので、単独行ばかりしている私は縁が遠くなってしまっている。徳沢園の入り口には山岳情報が張られており、涸沢方面は、本谷橋から上部はアイゼンよりワカンもしくはスノーシューの方が良い、涸沢から上は完全冬装備(10本爪以上のアイゼン・ピッケル必要)との記載があった。

徳沢を出て新村橋を出てしばらくすると、踏み跡が河原へ降りるようになっていた。横尾山荘の建替え工事に伴って作られた道路のようである。退屈な道路歩きだが、落石に注意しなくて良いのはメリット。徳沢→横尾間は結構落石の危険がある箇所があり、いつも通過には神経を使う。

横尾には、8:36に到着する。横尾山荘は建替え工事の真っ最中。ここでアンパンをひとつ食べる。横尾から先の道は、ほぼ全面的に雪に覆われている。雪の表面はあまり硬くなく、一部解け始めているのでアイゼンがなくてもまったく問題ない。この横尾→本谷橋の区間は意外と長く感じる。およそ1時間を要し、ちょうど10:00に本谷橋に到着する。

コンロを取り出して湯を沸かし、カップヌードルを作る。気温が低くてなかなか湯が沸かない。少なめのお湯にして、残り汁も全部飲みきってしまう。下界ではこんなことは絶対しないが、山では高カロリーであることが必要。本谷橋から上の区間を眺めると、谷底を登っていく経路となっている。昨年はここで右岸に渡り、橋の直上を巻いていくような夏道に近い経路であった。ふと、大きな音がする。屏風岩の方を見ると、雪崩が起きて大量の雪が降り注いでいる。上部で発生した雪崩によって、さらに下部でなだれが発生する様子がよく見て取れる。

本谷橋を10:30に出発し、本格的な登りとなる。本谷が狭まっている箇所が、デブリで埋め尽くされている。

雪の表面はやや固めだが、その下はやややわらかい。本谷橋で装着した10本爪アイゼンに助けられて、高度を上げていく。左へ回り込んで横尾本谷と別れ、涸沢へ向かっていく。天気が良く、日差しがきつい。今年はサングラスを持ってきている*1ので目は大丈夫なのだが、替わりに日焼け止めを忘れてきた。リップクリームは厚めに塗ってあるので、唇は大丈夫だと思うのだが、相当雪焼けしそうだ。

本谷橋を出発して1時間が経過するが、まだ涸沢ヒュッテのこいのぼりが見えてこない。コースが夏道に比べてかなり谷よりになっていることと、積雪・デブリが多いのが原因だろうか。小休止して、給水する。

ヒュッテのこいのぼりが見えてきたのは、本谷橋を出発してからおよそ1時間20分後。まっすぐに谷を登っていく。

ヒュッテ到着前、涸沢小屋との分岐点に道標が立っているのだが、実際の踏み跡はそれより上で分岐している。踏み跡の方は、ヒュッテ直下をトラバースして左側へ回りこんでいる。このトラバース箇所は歩きにくい。ここまでの道中でも感じたことなのだが、昨年登った時に比べて相当人が少ないように思える。正午前なので、前日雪が降ったとしてもそれ相応に踏まれていないといけないはずだ。ヒュッテはガラガラかもしれない。

最後の登りを牛のような歩みで進み、涸沢ヒュッテには12:27に到着。おおよそコースタイムどおりの登りであった。最後のあたり、ふくらはぎに相当の負担を感じた。

とりあえず、パノラマ売店に行き、おでんを注文する。持って上がってきたサッポロ黒ラベルを開け、涸沢カールを見上げながら飲む。新緑の時期や紅葉の時期も美しいが、雪氷と岩だけのこの時期もまた格別である。

受付を済ませ、就寝場所を確保する。今日は一人にふとん一枚が割り当てられそうだ。とりあえず横になる。暇つぶしに本棚から持ってきたヤマケイを読む。雪山登山についての基礎が紹介されている号であった。いろいろと参考になることも書いてあるが、単独行ばかりやっている私には、ピッケルが必要な登山は縁がないだろう。読み進めていくと、羽田治氏の、八甲田山での雪崩によるスキーヤー遭難事故についての記事が載っていた。なかなか読み応えのある記事で、読み終えるのに30分もかかってしまった。

15:30頃、不意にヘリコプターの音がする。登る途中に飛んでいた県警ヘリとはあきらかに違う音だ。もしやと思って窓から外を見ていると、ギューンという独特の音と共に東邦航空のJA6117がこちらへ向かってきた。民間機とはとても思えない、キビキビとした飛び方、メカニカルな外観。何度見ても、ラマはかっこいい。

17:30から夕食が始まる。まだ外は明るく、食堂の窓からすばらしい景色を楽しむことができる。味噌汁は味が濃く、塩分が体中に染みとおる気がする。昨年登った槍ヶ岳山荘は味噌汁が非常に薄かった。

食べ初めて10分ぐらいした頃であろうか、涸沢ヒュッテ社長の山口孝氏が挨拶をはじめた。明日稜線へ行かれる方も多いと思うが、昨日はみぞれ交じりの雪が30cmほど振ったので完全に弱層になり、穂高岳山荘の(今田)支配人からの依頼で今日は通行止めにさせてもらった、明日登られる方も十分注意して、奥穂へ行く人はザイテングラート経由で、北穂は...南稜しかないんですが、できれば早めに行った方がいいかと思います、くれぐれも気をつけて、という内容であった。

もうなんか、経営者の鏡みたいな人である。夕食準備の忙しい時間帯は、受付を手伝っていたし、電話がかかってくると2コールもしないうちに取っている。そして、登山道の状況について、客の前に出て自ら説明する。どっかのJRの経営陣に爪の垢でも煎じて飲ませたいところである。

部屋に戻って横になる。すでに休んでいる人も多いが、ダラダラと無駄話をしている人がいる。こういう人の会話は、本当に価値のない会話が多い。20:45に消灯になるがなかなか寝付けず、23時を回るころにようやく眠りに付く。

*1:去年はゴーグルしか持ってこず、結局つかわずじまい