行政評価局の報告書を読んで

エキスポランドの事故を受けて国土交通省がいろいろなことを言ったりやったりしているが、かなりボロボロであることが総務省行政評価局の遊戯施設の安全確保対策に関する緊急実態調査に基づく勧告で指摘されている。調査報告書の1 緊急点検結果のフォローアップの的確な実施は読んでいるだけでゲンナリしてくる。特に29ページ以降を読んでいると、制度問題というか国土交通省住宅局の行政能力の低さに恐れ入る。

JISの「車輪軸」

特定行政庁における探傷試験に対する対応をみると、遊戯施設の所有者に緊急点検の指示を行うに当たり、遊園地側とコースターごとにどこまでを探傷試験の対象とするか構造に即して打合せ、直接軸に車輪が付いていなくても構造上重要である軸も探傷試験の対象とすることとし、指示文書にも車輪軸のほか、車軸も対象とすることと明記している特定行政庁がみられる。
一方、コースターの構造は一様でなく、負荷のかかり方も機種別に異なることから、検査範囲を示すことは困難として、具体的な指示は行っておらず、どこまで検査するかは遊戯施設の所有者又は保守点検業者の判断にゆだねることとなっている特定行政庁がある。
以上のように、定期検査における探傷試験をどの範囲まで実施すればよいのか(主車輪軸、側車輪軸等と呼ばれ、文字通り軸に直接車輪が付いている軸だけでよいのか、車輪は付いていなくも構造上主要な他の軸も対象とするのか等)について特定行政庁でも判断が分かれている状況がみられた。 (特定行政庁:和歌山県枚方市大津市

ということの原因として、

探傷試験についてJIS検査標準では、「車輪軸は、1年に1回以上の探傷試験を行うこと。」(5.6.3(4))とされているが、同検査標準では「車輪軸」についての定義、検査範囲が明確となっていない

というものが指摘されている。上記で言う「構造上重要な軸」というのは、例えば風神雷神の事故で折れたボギー軸のようなものを指しているのだろう。これはJISを字面上解釈する限りでは、「車輪軸」には含まれないとするのが妥当だろう。5月27日の日記では、以下のように書いた。

この事故が起きた直後にJIS A 1701を読んでみたが、「車輪軸」という表現に違和感を覚えた。(略)
「走り装置」や「車軸」などと書いてあるならまだしも、「車輪軸」というのであれば、一般的な解釈としてはボギーと車輪ユニットを連結しているピンは含まれないように思われる。JISをくまなく調べたわけではないので「車輪軸」についての別の定義があるのかもしれないが、たまたま今回折損したのが軸状のものであったから問題になっているが、ボギーや車輪ユニットが損傷して事故になったのであれば、まったくJISの関与するところではないということになる。

声高に「JISで決まっている」というと、本質を見えなくするように思われる。

運用する行政側も、この定義の解釈に困っていたようである。もちろん、JISで決まってないから探傷試験をしなくても良い、というのではなくて、JISはあくまでリファレンスでしかないのだから、ボギー軸は当然ながら探傷試験や磨耗試験を行うべきなのである。法令で決まってないからやらない、法令で決まってなかったから責任を問われない、という性質のものではない。

現にエキスポランドでは12ヶ月を越えている時もあったが、ボギー軸の試験は行っていたのである*1。当時の事務次官やマスコミや吹田市はJISがJISが、と言っていたが、これはかえって本質を見えなくする。

JISの位置づけ

報告書12ページに、以下のような記載がある

日本工業規格(JIS)とは
工業標準化法(昭和24年法律185号)に基づき、経済産業省に置かれている日本工業標準調査会の答申を受けて、産業ごとの主務大臣が制定する工業標準化のための基準であり、建築物その他の構築物の設計、施工方法又は安全条件について定めている。
○ JISは、それに適合しない製品の製造、販売、使用、JISに適合しない方法による使用などを禁ずるものではなく、任意標準である。しかし、JISを法令において引用することによって、強制力を持つ強制標準としているものもある。
例)JISK0101「工業用水試験方法」による水質測定の義務付け
工業用水道事業法施行令(昭和32年政令291号)第1条において、工業用水道事業者に対し、JIS基準K0101工業用水試験方法による水質の測定を義務つけている。

このあたりについても、5月27日の日記に以下のように書いた。

建築基準法からJIS A1701へは直接繋がっておらず、ミッシングリンクがある。このリンクがどこかにあるのかと、各地の例規などをいろいろ調べているのだが、未だに発見することができていない。
(略)
法令でJISを引用している例は多数あるし、近年建築基準法が大幅に改正された中で、性能規定化を進めてきたにもかかわらず、JISなどを引用していないからこのような問題が出てきたわけである

建築基準法からJIS A1701へのミッシングリンクは、結局のところつながらないようである。2回目の緊急点検のころから、このblogへ「JIS A1701 検査標準」などの検索経由で全国各地の自治体からのアクセスが大量にあった*2

緊急点検についての遊戯施設の所有者等の意見・要望等で、こういうことを言っているところがある。

1 法定点検はJIS検査標準に基づいて行わなければならないという規定がないにも関わらず、これを緊急で実施せよとの指示は根拠がない。
2 JIS検査標準に基づいて法定点検を行うことが必要ならば、そのことを法等で周知した後、来年度の法定点検で実施すべきである

従前どおりの定期検査ではJIS検査標準どおりの検査ではなく、追加検査が必要であることを5月23日付け国土交通省要請の緊急点検(県からの通知は6月7日付け)で初めて知った。行政の指示どおり実施する予定であるが、今まで定期検査の報告等をしてきて何の指導等もなかったのに、今回これまでの定期検査ではJIS検査標準に満たないと言われた。確かにJIS検査標準について、遊園地事業者も認識不足の面があったが、行政側からどこまでの検査が必要か明確な指示が今までなかったので、今回の緊急点検に限らず、行政は明確な指示をしていただきたい。

他にももっともな意見ばかりで、住宅局は簡単に緊急点検の紙切れを出したが、中途半端な法令で長年運用してきたものを、網羅的に全てJIS基準を当てはめて検査させるという、特定行政庁の指導に猛烈な反発が現場ではあったのだろうと思われる。

住宅局の責任

思えば、耐震強度の偽装も、エレベータの保守点検問題も、遊戯施設の事故も、改正建築基準法に伴う大混乱も、エスカレーター事故も、すべて住宅局の所轄である。中の人は1年以上まともに家に帰れていないと思われるが、それもこれもこれまでの行政が本質をみないいい加減なものであったツケがまわってきているのである。同じ旧建設省でも、土木はいろいろな機関や学会の助けを借りながら、多種多様な土木構造物についてうまく規制をかけることに腐心してきたのである。

今回の勧告を受けてなお、住宅局は検査追加の紙切れを出した。もう、国土交通省住宅局は解体した方がいいのではないだろうか。

他、アトラスタワーの事故の件も書こうと思っていたが長くなったので別の機会に。

*1:ただし、検査方法に問題があって今回の事故につながった

*2:総務省からのアクセスもかなりあった