エキスポランドの事故(誤謬編)

エキスポランドの事故、ネタ切れなのかマスコミでの取り扱いも小さくなってしまった。この問題は単にエキスポランドが検査周期を3ヶ月伸ばした、という問題ではなく、いろいろな課題を含んでいる。行政側の責任回避のため、耐震偽装問題のような中途半端な幕切れになる可能性もある。そこで、とりあえず現時点で明らかな誤りを指摘しておこうと思う。

朝日新聞の事故概要図

朝日新聞特集ページを開くと、中ほどに関連項目というのがあり、事故概要図というのが掲載されている。このが大間違いである。破断したのは、この図で示されている「ボギー先端軸」の外側の方ではなくて、内側の方が折れたのである。エキスポランド側が当初発表したのは外側であったが、実際に折れた軸を見ると内側が折れていたのである。

なぜ、エキスポランド側が間違えたのか、というのは事故原因を探る上で重要なポイントである、ということが以下のblogで指摘されている
エキスポランド事故 写真この1枚

JISの解釈

この事故が起きた直後にJIS A 1701を読んでみたが、「車輪軸」という表現に違和感を覚えた。問題点については、以下のblogで指摘されているのだが、
エキスポランドのジェットコースター事故報道に見られる過剰報道

「走り装置」や「車軸」などと書いてあるならまだしも、「車輪軸」というのであれば、一般的な解釈としてはボギーと車輪ユニットを連結しているピンは含まれないように思われる。JISをくまなく調べたわけではないので「車輪軸」についての別の定義があるのかもしれないが*1、たまたま今回折損したのが軸状のものであったから問題になっているが、ボギーや車輪ユニットが損傷して事故になったのであれば、まったくJISの関与するところではないということになる。

声高に「JISで決まっている」というと、本質を見えなくするように思われる。

JISの法的位置付け

殆どの報道では、「JISは任意だと思っていた」という各地の遊園地の回答を、非難するような書き方になっている。今後、業務上過失致死罪の適用を検討するにあたって、このJISの位置づけが非常に問題になってくるように思われる。事故直後の5/8の大臣会見で、

検査の内容については、建築基準法施行規則というのがありまして、それに定められた報告書に加えて、特定行政庁が規則で定める書類を添えて行うことと決めています。吹田市建築基準法施行細則というのがありまして、そこには、「市長が必要と認める書類」と書いてありまして、その内容が何なのかということはその中には書かれていません。ただ、運用として、(財)日本建築設備・昇降機センター作成の定期検査業務基準書類における標準様式を用いて定期検査が実施されるべきであるとされていると、私は聞いて初めて分かりました。また、その基準書の中で何が書かれているかというと、建築基準法令と日本工業規格の検査標準に基づいて検査を行うことと書かれてあります。その日本工業規格の検査標準の中には、「車輪、車輪軸、軸受け、台車及びそれらの取り付け部に錆び、腐食、摩耗、き裂、欠損等について確認する」とされ、特に、「車輪軸は、1年に1回以上の探傷試験を行うこと」とそこに初めて書かれていて、非常に分かりにくいと言いますか、特に吹田市建築基準法施行細則というところで切断されてしまっていると私は思います。

と述べているように、建築基準法からJIS A1701へは直接繋がっておらず、ミッシングリンクがある。このリンクがどこかにあるのかと、各地の例規などをいろいろ調べているのだが、未だに発見することができていない。

例えば、三重県四日市市では報告の手引きがあるのだが、
建築基準法定期報告実務手引書
この中にJISという文字は出てこないのである。

国土交通省の次官は5/10の会見で

ただ、我々としては、検査資格者は建築基準法施行規則によりまして、国土交通大臣が定める要件を満たし、かつ国土交通大臣の登録を受けた講習を終了した者に与えるとなっていまして、この講習では、日本工業規格の検査標準も教科項目に入っていますから、そういう意味では、知らなかったということならば、我々としても遺憾であります。

という、とぼけたことを言っている。法令でJISを引用している例は多数ある*2し、近年建築基準法が大幅に改正された中で、性能規定化を進めてきたにもかかわらず、JISなどを引用していないからこのような問題が出てきたわけである*3

耐震偽装にせよ、建築士の処分にせよ、エレベータ事故にせよ、突き詰めると建築基準法という法律の立法技術に多くの問題があるように思われる。網羅的に規定するのが無理であるから性能規定化を図るのは良いとして、その際にどのような基準・根拠を適用するのかは、良く考えておく必要がある。

*1:少なくともJIS検索では見つけられなかった

*2:法令データベースで「日本工業規格」を検索すると、348件引っかかった。この中には用紙サイズの定義などの本質でないものも含まれるが。

*3:同様に性能規定化を進めてきた鉄道では、事業者が各社ごとに実施基準というものを作成して運輸局に届け出ることによって、規定の明確化を図れるようになっている。実施基準は実際には運輸局で審査が行われて不備がある場合は受理されないし、実施基準に反した場合は法令違反となる。